2018年10月16日

『チャーリーとチョコレート工場』

データ
『チャーリーとチョコレート工場』

評価:☆☆☆☆☆☆☆☆・・
年度:2005年
鑑賞:封切り時にスクリーンで鑑賞。2018年BS/CSで再視聴。
監督:ティム・バートン
原作:ロアルド・ダール
音楽:ダニー・エルフマン
俳優:ジョニー・デップ(ウィリー・ウォンカ) フレディ・ハイモア(チャーリー・バケット) 
   ディープ・ロイ(ウンパ・ルンパ) ヘレナ・ボナム・カーター デヴィッド・ケリー 
   クリストファー・リー ミッシー・パイル 
   ジェームズ・フォックス アダム・ゴドリー フランツィスカ・トローグナー アナソフィア・ロブ  
   ジュリア・ウィンター ジョーダン・フライ フィリップ・ウィーグラッツ リズ・スミス 
   アイリーン・エッセル デヴィッド・モリス
製作国:アメリカ、イギリス
allcinemaの情報ページはこちら


『チャーリーとチョコレート工場』

Warner Bros./Photofest/MediaVast Japan


コメント

ティム・バートン監督の素晴らしい想像力で描かれた本作のカラフルな映像が私を魅了し、
初見では物語が把握できなかったほどです。
(難しい映画じゃないのにね)

ことしようやく見直しが叶い、物語がそっくり理解できました。
ただ以下の文では痒いところに手が届かないような書き方になっています。
初見の際の私の戸惑いを少し滲ませて書いておりますから。


2005年にこの映画を見たとき、ロアルド・ダール(原作者)という作家を思い出しました。
1960年代後半に、世界の流行から少し遅れて日本でも「奇妙な味」ブームが起こりました。
SFとも怪奇ともつかぬ不思議で後味の割り切れない小説群のことです。
(きっかけは少年マガジンだったかの漫画でしたけれど)
私はブームに乗って、サキ、マルセル・エーメ、ジョン・コリアなど読みふけったのですが、ロアルド・ダールの作品も1、2冊は読んだように思います。ただ、本作の原作『チョコレート工場の秘密』は読んでいません。

改めてダールの諸作品の書評など読んでみますと、なかなかにブラックな風刺が散りばめられている様子。
宮崎駿さんがダールを好きだと初めて知りました。

そういう「奇妙な味」作家の一人が書いたブラックな小説を、ティム・バートンさんという辛辣であることがアイデンティティーな監督が映画化したわけですから、これはもう棘(トゲ)だらけのファンタジーになるのも当然と言えましょう。
棘については批評欄に書きます。


とはいえ、本作の結末はわかりやすいハッピーエンド。
このわかりやすさが少し不満です。「奇妙な味」ファンとしては。


高校教員時代にこの映画が好きだという高校生に数多く出会ったことはいまでも不思議です。
こんな悪意に満ちた映画を?
もちろん中にジョニー・デップさんファンもいたでしょうが、なんだかみんな瞳をキラーんとさせて本作が好きだと言っていた様子から、ディズニーに飽き足りないファンタジーファンを惹きつけたのかな、と思ったりしたものです。
でも残念ながら理由は聞き漏らしました。
本作の棘だらけの痛さは彼女たちにとってスパイスだったのでしょうか。
それとも、そういう痛みがわかる世代だったのでしょうか。


チャーリーはウィリー・ウォンカの秘密のチョコレート工場の見学ができるゴールドチケットが欲しくて前倒しして食べたチョコレートにチケットは入っていませんでした。
(↑息継ぎなしで読んでね)
祖父はなけなしのへそくりをチャーリーに渡してチョコレートを買っておいでというのですが、そこにもチケットはありません。
落胆していたチャーリーは、積もった雪の中に一枚の紙幣が落ちているのを見つけました。
チョコレートを買うと、見事に金色に輝くチケットが入っていました。
チャーリーが拾った金でチョコレートを買うことへのためらいのなさに驚きます。


ジョニー・デップさんの偏屈な人物造形に拍手を惜しみません。
また、ヘレナ・ボナム・カーターさんのいつものリアル感溢れる脇役ぶりに賛辞を。でも、
ここでは165役をこなしたディープ・ロイ(ウンパ・ルンパ役)さんに敬意を表し、下記の動画を共有します。


「Oompa Loompa Song」:Tim KnightさんのYoutube。



批評:チョコレートのトゲ

『アリス・イン・ワンダーランド』でも書いたように、
バートン監督の映画にはサボテンのように棘(トゲ)が植えられています。
毒や悪意や辛辣な風刺などという形で作品が飾られています。

本作にも各種の棘があり、たとえば子供に対する憎悪がその代表例なのですが、
中でも私が最も痛く感じた棘は、産業社会の酷薄さという棘でした。

主人公チャーリー少年の住むボロ家は、もちろん何より大切な家族、の象徴なのですが、
そのボロぶりは凄まじく、家屋は傾き、雪が降るようなこの町なのに天井に大穴が空いています。

その家には老人(祖父母)が4人住んでいて、その世話に明け暮れる母と、歯磨き粉工場に勤める父、そしてチャーリー、の計7人が暮らしています。
毎晩の夕食はキャベツスープだけです。
チャーリーは年に一度の誕生日にチョコレートが食べられるだけ。(それすらみんなに分けます)
歯磨き工場の給料はとても安いようです。

チャーリーにへそくりを渡した祖父は、かつてチョコレート工場で働いていましたが、産業スパイに怒った経営者ウォンカは従業員全員に解雇を申し渡しました。
祖父はもちろん、解雇された従業員の怒りの声は描かれません。

歯磨き工場へのロボット導入で父はクビになりますが、なぜかそのロボットの修理技術者として再雇用され、家庭での食事情は飛躍的に好転します。キャベツスープが肉の塊になるのです。ロボット導入で解雇された従業員はチャーリーの父親だけではないでしょう。他の元従業員たちは再雇用されたのでしょうか、とても気になります。

その他様々な場面で、「貧乏人」と「金持ち」「超金持ち」との大きな差が描かれます。
チャーリーはウォンカからの「超金持ち」になるだろう提案を拒み、貧しくても家族と一緒に暮らすことを選びます。
貧乏人の私としては救いがあります。
ですが、結局エンディングでチャーリーはウォンカの提案を呑み、チョコレート工場の跡取りとなりました。
とはいえ、家族とともに工場内で住み、その住まいはこれまで通りのボロ家。
わざわざ移設したのですね。
狭いスペースで家族みんなが仲良く暮らす家。
その家ではウォンカまで一緒に食事をとり、チャーリーの母親のマナー指導を受けます。
観客は呆れ、そして感動するという寸法です。
そうか、金回りが良くなっても豪邸に住む必要はないんだな、と。


ここまででお分かりのように、棘とはいえ、チクと痛いくらいの棘です。
致命傷にならない程度の棘が無数に刺さり、皮膚をさすっている間に映画は終わります。
なんとなくチャーリーの家族のブレない団結に心暖かくなった気分で映画館を後にできます。

でも、棘はすべて皮膚がはじき出してくれるとは限りません。
中には体内に入り込み、血管を遊泳し、やがて心の臓に達する可能性もありますから、
私たちのリアルな生活では些細な棘にも御用心召されよ。




同じカテゴリー(映画)の記事

Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。