2019年09月04日

『黒いオルフェ』:フランス製ブラジル映画

データ
『黒いオルフェ』
Orfeu Negro
評価:☆☆☆☆☆☆☆・・・
年度:1960年
鑑賞:1960年頃に鑑賞。しかし記憶乏しい。2019年BS/CSで再視聴。
監督:マルセル・カミュ
原作:ヴィニシウス・ヂ・モラエス(戯曲)
音楽:アントニオ・カルロス・ジョビン ルイス・ボンファ
俳優:ブレノ・メロ(オルフェ) マルペッサ・ドーン(ユリディス) 
ルールディス・デ・オリヴェイラ(ミラ) レア・ガルシア(セラフィナ) 
アデマール・ダ・シルバ (The Enigmatic Man、仮面の男、死神?)=五輪メダリスト 
製作国:フランス
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『黒いオルフェ』:フランス製ブラジル映画




コメント

ほぼ記憶が残っていない映画でしたが、テーマ曲はとても好きでしたから、一度はきちんと見ておきたい作品でした。
いきなりの神話の壁を破って始まるサンバ、全く理由がわからないままヒロインを狙う仮面の男、ラストのオルフェの継承など、フランス映画・フランス監督らしいおしゃれ感や不条理感のある作品だったのが意外でした。

主人公たちの軽快なステップ、ワクワクする素敵な音楽。
中でもラストシーンの三人の子供たちのダンスの本物の躍動感!
批評欄に書く弱点はあるものの、ご自分を1960年頃の知性や感受性にリセットできる方には特にオススメしたい、ブラジルの熱気あふれるフランス作品(笑)です。


「黒いオルフェテーマ」を小野リサさんの素敵な歌唱で:AyakoFuji2


批評

ギリシア神話をモティーフにしてブラジル人(M)が書いた戯曲を、フランス人(C)が監督して映画化した。
主演男優はブラジル人、主演女優は(たぶん)後でフランス国籍取得、両親はアメリカ人とフィリピン人。

もう少し詳しく書く。

1)ギリシア神話(参考資料:wikipedia)
オルペウス(オルフェウス)とその妻エウリュディケーの物語。

本作鑑賞上、知っておけば便利な神話物語のポイントは
・オルペウスは竪琴(たてごと)と歌の名手。森の動物や木々・岩まで彼の周りに集まる。
・エウリュディケーは新婚早々に毒ヘビに噛まれて死ぬ。オルペウスは冥界に出向きその王ハーデースや女王ペルセポネーに懇願して妻を現世に取り戻す許可を得る。しかし「振り向いてはならぬ」という言いつけを破ったため、二人には永遠の別れとなった。
・オルペウスは妻の死後、輪廻転生を語り解脱を説く密儀宗教を開く。この宗教は現実に存在する。
・ディオニューソス(バッコス神)は、マケドニアのデーイオンで、マイナス(狂乱する女)たちにオルペウスを襲わせ、マイナスたちはオルペウスを八つ裂きにして殺した。マイナスたちはオルペウスの首をヘブロス河に投げ込んだ。しかし首は、歌を歌いながら河を流れくだって海に出、レスボス島まで流れ着いた。

2)原作者ブラジル人M
M=ヴィニシウス・ヂ・モラエスさん
民主主義的思想の持ち主であり、フランスとの交流もあるブラジル人。

詩人にして作曲家、歌手、戯曲家。左翼思想家で9度の離婚・結婚歴。ボサノヴァ創始者の一人。「イパネマの娘」・「ビリンボウ」共作。アントニオ・カルロス・ジョビン、バーデン・パウエル、トッキーニョ、フランシス・レイなどと深く交流。リオデジャネイロオリンピックの大会マスコット『ビニシウス』は、彼の名前に由来。(Wikipediaより)

3)フランス人監督C
C=マルセル・カミュさん

彼の人物像については、ネット上で漁ってみてもよくわからない。「異邦人」のカミュと肉親だとする記述が一件だけあった。同時代の人物であることは間違いないが、、画像を見る限り、イケメンだがどうも知性が伝わってこない。しかしとにかくフランスの映画監督である。


!)〜3)の材料から考えると、こういう仮定が成り立つように思う。

原作者(M)はギリシア神話にインスパイアされ、この物語を現代のブラジルの貧民層(主に黒人)の世界に移して表現しようとした。
Mは、都会周辺の高地にあるファヴェーラ(貧民街)に住む人々をありのまま見つめ、そのありのままの美しさや未来を描こうとした。

この原作を、監督(C)は、フランス白人の感性で映画化した。フランス白人にとってカーニヴァルに一年分の情熱を捧げるブラジル人、中でも黒人はエキゾティックな魅力満点の素材であった。彼はファヴェーラの現実を知らず、そこに住む貧民の真実を知らず、ただ、貧しい者たちを賛美したかった。

本作がきらびやかでシュールな輝きに満ちているにも関わらず、宙に浮かんだ虚しさから逃れられない理由がここにあるのではないか。

とはいえ、エキストラたちのダンスのシーンにはゾクゾクさせる真実味が感じられる。
主な俳優たち、特にミラやセルフィナ、オルフェ役の俳優たちがほんとうに踊りたかったからではないだろうか。

つまりこの映画の成功は、彼ら(演技には素人だが)ブラジル黒人たちを起用したことにあると言える。オーディションが行われたなら、それは大成功だったということだ。


「涙が出そうになるくらいに、生きろ。」アルベール・カミュ



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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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