2020年01月28日

『ザ・マミー』:ダーク・ファンタジーの佳作

データ
『ザ・マミー』
vuelven(彼らは戻ってくる、やってくる:スペイン語) Tiger are not afraid(虎は恐れない:英題)
評価:☆☆☆☆☆☆・・・・
年度:2017年
鑑賞:2020年BS/CSで視聴。
監督:イッサ・ロペス
俳優:パオラ・ララ(エストレア)ファン・ラモン・ロペス(シャイネ) イアニス・ゲレロ(カコ)
ロドリゴ・コルテス アンセル・カシャーリス ネリ・アレドント  テノッチ・ウエルタ・メヒア(チノ)
製作国:メキシコ
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『ザ・マミー』:ダーク・ファンタジーの佳作

予告編より


『ザ・マミー』:ダーク・ファンタジーの佳作

ポスター


コメント、批評

最初に苦言を呈しておきます。
本作を配給したAMGエンタテインメントという企業は知りませんが、上記ポスターの「世界を震撼させた、本物の恐怖」という文言はミスリードもいいところです。せっかくの映画の特徴が台無しですし、本作を観に来てもらいたい客層は映画館に足を運ばなくなるでしょう。

確かにホラーの手法と味付けを加えてはいるものの、これはダークファンタジーの佳品です。ギレルモ・デル・トロさんの傑作『パンズ・ラビリンス』のスケールを小さくし、そのかわり現代メキシコの少年少女に降りかかる社会的災厄を作品の背景にしています。

社会的災厄とはなんでしょう。21世紀のメキシコが抱える最大の病理は麻薬戦争です。コロンビアの麻薬組織(カルテル)が壊滅に追い込まれたのは良いとして、世界の麻薬業界にとって一番の上得意アメリカ合衆国民の麻薬需要が減ることはありません。ですからコロンビアの機能をメキシコが引き継いだのです。そのメキシコ麻薬組織を撲滅しようとしたカルデロン政権(2006~2012)との間で麻薬戦争が勃発した、とラフスケッチできます。

私自身メキシコの麻薬戦争について痒いところに手が届かない状態のまま実感が持てずにいますから、付け焼刃の知識をここで書くのは控えておきます。インターネット上で私が見つけた中でもっともわかりやすい解説は、wikipedia「メキシコ麻薬戦争」および以下の二文です。
「犯された女の子供たち」 メキシコ麻薬カルテルが残虐な理由 藤原章生 (毎日新聞記者) :WEDGE infinity
『メキシコ麻薬戦争』 ゴッドファーザーよりヤバイ現実
:gendai ismedia

ただこれらの記事の中で見つけた三つの例だけを紹介しておきます。
・メキシコのある農民は、ケシの栽培を拒否したので殺害された。
・街ぐるみで消えたところがある。
・麻薬組織の殺害方法は非常に残忍である。

この三つを選んだのは、本作の内容に説得力を持たせるだろうと考えたからです。本作中でも一般人の大量殺人があった(描写はほぼゼロ)のですが、日本列島に住んでいるとこれもまたファンタジーのように受け止められるかもしれません。しかしどうやらメキシコでは麻薬組織は邪魔になった人々を簡単に、しかも残酷に殺害することが珍しくないようです。とても些細なことで彼らの邪魔になってしまうことがありうるという意味です。本作の背後には深刻なリアリティが存在するのです。そして、日本円にしてわずか1万円にも満たない金額で殺人を請け負う子供たちがたくさんいることもまた上記から得た知識でした。凄まじい格差社会が生まれています。日本もまもなく追いつきますが。

これらの予備知識だけは持って本作をご鑑賞くださればと思います。


本作の主演の少年少女は素晴らしい好演でした。特に眼差しの強さはとても演技とは思えません。
彼らをはじめとするストリートチルドレンの動きが映像の中心です。大人が登場する場面が少なく、しかもその大人のほとんどが極悪人です。そういう点でもメキシコの現状を反映しているダークファンタジーと言えるでしょう。映画配給会社のお粗末な宣伝に騙されず、よろしければ一度ご鑑賞ください。

ストーリーはシンプルです。母が行方不明になった少女エストレアが、ストリートチルドレンに寄るべを求め、母の幽霊に怯えながらも真相を突き止め、たくましくなっていくお話です。なにも忘れずなにも怖れない虎がストリートの少年少女たちの憧れであり目標なのですが、ついにエストレアは虎になったのでした。
惜しいのは、エストレア役の少女の目ぢからが強いため、冒頭でひとりぼっちになったときの頼りなさが十分表現できていないこと。そのためたくましくなった彼女との差がやや曖昧になってしまったことでしょう。とはいえそれはストーリーで補えますので、子役の限界だとして鷹揚に観ればよろしかろうと思います。


『ザ・マミー』:ダーク・ファンタジーの佳作

予告編より




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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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