2019年12月26日
『ハッピーフライト』:完成度の高い群像劇
データ
『ハッピーフライト』
評価:☆☆☆☆☆・・・・・
年度:2008年
鑑賞:2019年BS/CSで視聴。
監督:矢口史靖
音楽:ミッキー吉野
主題歌:フランク・シナトラ『カム・フライ・ウィズ・ミー』
俳優:田辺誠一 時任三郎 /綾瀬はるか 吹石一恵 寺島しのぶ
田畑智子 平岩紙 田山涼成 /岸部一徳 中村靖日 肘井美佳
ベンガル /田中哲司 森岡龍 /長谷川朝晴 いとうあいこ 江口のりこ 宮田早苗
小日向文世 /笹野高史 菅原大吉 正名僕蔵 藤本静 /木野花 柄本明
製作国:日本
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日本映画専門チャンネルより
コメント
私は今回が初見だったのですが、これまで何度も地上波やBSで放映されているそうですね。その理由がわかります。準備・リサーチが十分なされたことや脚本がしっかり練られていることが伝わる優れた群像劇でしたから。
完成度が高い作品だと思います。
群像劇としての本作の特徴はいくつかあります。
一つ目に、空港や航空会社の各グループどうしはほとんど出会うことがないことです。
一方の主役副機長の鈴木和博(田辺誠一さん)ともう一方の主役新人CA斉藤悦子(綾瀬はるかさん)は同じホノルル行きNH1980便に乗り込みますが、打ち合わせで顔を合わせただけで他にはなんの接点も持たないまま映画は進行し、終了します。同じことが他の地上スタッフ、管制官、コントロールセンターなどのグループ相互間にもいえます。みんながそれぞれの責務を果たすことで、NH1980便が運行されていくという設定になっています。
ただ、上記にもかかわらず、各職種間の壁がほのめかされています。たとえば地上勤務の木村菜摘(田畑智子さん)がある事情でフライト直前の飛行機に足を一歩踏み入れると、CAの田中真里(吹石一恵さん)から睨まれるところがその場面です。こういうシーンが辛口の調味料になって本作は鑑賞ににたえる作品になったのでしょう。
二つ目に、各登場人物の人生の背景が(乗客も含めて)一切描かれていないことです。わずかに斉藤が食いしん坊で何度も腹をこわしたことがあることが、正露丸からわかる程度です。もちろん登場人物どうしの愛憎関係もありません。せいぜいが困った同僚くらいですので、とても清々しいです。恋愛のない群像劇はこんなに楽しいものなんですね。
三つ目に、職業内幕もの映画としてうまくできていることです。2004年に亡くなったアーサー・ヘイリーさんの内幕小説を私はよく読みました。彼が描く小説によって、米国のホテル業界(『ホテル』)・自動車業界(『自動車』)・航空業界(『大空港』)などの内情をかいま見、知識をえました。けれど二時間前後の映画で描くとなるとどうしてもドラマ性が優先されその点が疎かになりがちです。ところが本作では、ドラマ性は多少犠牲にしても内幕と知識が得られました。脚本(矢口監督)の方針が明確だったのでしょう。
特にピトー管という初耳の機器については勉強になりました。本作ではこのピトー管にカモメが衝突することによってトラブルが発生します。航空機の速度を測定する重要な機器ですから、この不具合はきわめて危険です。予備も含めて複数箇所に設置されているのに、オンタイムの運航のために妥協したことが仇となったことも上手な伏線のおかげで理解できました。
本作公開の翌年、エールフランス447便がこのピトー管の凍結により墜落し、乗客乗務員228人全員が死亡したことも改めて知りました。この便の32歳の副操縦士は機首の上げ下げ操作を誤っていました。本作中でも副操縦士が間違えそうになった操作です。本作を観ていれば防げたのに、と詮ないことを思ってしまいました。
俳優には芸達者が多く、その点も楽しめました。本作公開当時は私はまだ綾瀬はるかさんを認識していなかったかもしれませんが、少々天然の新人CAを程よく好演しています。TV『精霊の守り人』(NHK)で見せた抜群の身体能力はここでは封じられていますが。田辺誠一さん、時任三郎さん、寺島しのぶさん、田畑智子さん、笹野高史さん、田中哲司さんたちもそれぞれ適材適所でした。
本ブログでの基準では☆5となりますが、娯楽作品としてのレベルは高い楽しい映画でした。
『ハッピーフライト』
評価:☆☆☆☆☆・・・・・
年度:2008年
鑑賞:2019年BS/CSで視聴。
監督:矢口史靖
音楽:ミッキー吉野
主題歌:フランク・シナトラ『カム・フライ・ウィズ・ミー』
俳優:田辺誠一 時任三郎 /綾瀬はるか 吹石一恵 寺島しのぶ
田畑智子 平岩紙 田山涼成 /岸部一徳 中村靖日 肘井美佳
ベンガル /田中哲司 森岡龍 /長谷川朝晴 いとうあいこ 江口のりこ 宮田早苗
小日向文世 /笹野高史 菅原大吉 正名僕蔵 藤本静 /木野花 柄本明
製作国:日本
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日本映画専門チャンネルより
コメント
私は今回が初見だったのですが、これまで何度も地上波やBSで放映されているそうですね。その理由がわかります。準備・リサーチが十分なされたことや脚本がしっかり練られていることが伝わる優れた群像劇でしたから。
完成度が高い作品だと思います。
群像劇としての本作の特徴はいくつかあります。
一つ目に、空港や航空会社の各グループどうしはほとんど出会うことがないことです。
一方の主役副機長の鈴木和博(田辺誠一さん)ともう一方の主役新人CA斉藤悦子(綾瀬はるかさん)は同じホノルル行きNH1980便に乗り込みますが、打ち合わせで顔を合わせただけで他にはなんの接点も持たないまま映画は進行し、終了します。同じことが他の地上スタッフ、管制官、コントロールセンターなどのグループ相互間にもいえます。みんながそれぞれの責務を果たすことで、NH1980便が運行されていくという設定になっています。
ただ、上記にもかかわらず、各職種間の壁がほのめかされています。たとえば地上勤務の木村菜摘(田畑智子さん)がある事情でフライト直前の飛行機に足を一歩踏み入れると、CAの田中真里(吹石一恵さん)から睨まれるところがその場面です。こういうシーンが辛口の調味料になって本作は鑑賞ににたえる作品になったのでしょう。
二つ目に、各登場人物の人生の背景が(乗客も含めて)一切描かれていないことです。わずかに斉藤が食いしん坊で何度も腹をこわしたことがあることが、正露丸からわかる程度です。もちろん登場人物どうしの愛憎関係もありません。せいぜいが困った同僚くらいですので、とても清々しいです。恋愛のない群像劇はこんなに楽しいものなんですね。
三つ目に、職業内幕もの映画としてうまくできていることです。2004年に亡くなったアーサー・ヘイリーさんの内幕小説を私はよく読みました。彼が描く小説によって、米国のホテル業界(『ホテル』)・自動車業界(『自動車』)・航空業界(『大空港』)などの内情をかいま見、知識をえました。けれど二時間前後の映画で描くとなるとどうしてもドラマ性が優先されその点が疎かになりがちです。ところが本作では、ドラマ性は多少犠牲にしても内幕と知識が得られました。脚本(矢口監督)の方針が明確だったのでしょう。
特にピトー管という初耳の機器については勉強になりました。本作ではこのピトー管にカモメが衝突することによってトラブルが発生します。航空機の速度を測定する重要な機器ですから、この不具合はきわめて危険です。予備も含めて複数箇所に設置されているのに、オンタイムの運航のために妥協したことが仇となったことも上手な伏線のおかげで理解できました。
本作公開の翌年、エールフランス447便がこのピトー管の凍結により墜落し、乗客乗務員228人全員が死亡したことも改めて知りました。この便の32歳の副操縦士は機首の上げ下げ操作を誤っていました。本作中でも副操縦士が間違えそうになった操作です。本作を観ていれば防げたのに、と詮ないことを思ってしまいました。
俳優には芸達者が多く、その点も楽しめました。本作公開当時は私はまだ綾瀬はるかさんを認識していなかったかもしれませんが、少々天然の新人CAを程よく好演しています。TV『精霊の守り人』(NHK)で見せた抜群の身体能力はここでは封じられていますが。田辺誠一さん、時任三郎さん、寺島しのぶさん、田畑智子さん、笹野高史さん、田中哲司さんたちもそれぞれ適材適所でした。
本ブログでの基準では☆5となりますが、娯楽作品としてのレベルは高い楽しい映画でした。
Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)
│映画
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