2020年01月12日

『死国』:伝奇譚が恋愛譚にシフトダウンする肩すかし

データ
『死国』

評価:☆☆☆☆・・・・・・
年度:1999年
鑑賞:2020年BS/CSで視聴。
監督:長崎俊一
原作:坂東眞砂子
撮影:篠田昇
主題歌:米良美一「ぼくは雨となり星となる」
俳優:夏川結衣 筒井道隆 栗山千明 根岸季衣 佐藤允 大杉漣 諏訪太朗 大寶智子
製作国:日本
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『死国』:伝奇譚が恋愛譚にシフトダウンする肩すかし

『死国』製作委員会:栗山千明さんは当時15歳。もちろん演技はまだまだですが、ラストで文也に抱かれたときの幸せな表情にはハッとさせる情感がありました。


コメント

日本の伝奇ホラーの王道をいく前半は期待値が高まります。

小学生の時に都会に転居して以来、久しぶりに閉鎖的な四国の山村に戻って来た明神比奈子(夏川結衣さん)。当時の友人日浦莎代里(栗山千明さん)が高校生の時に死んでいたことを初めて知る。その友人はその母の口寄せ術で尸童、依童(よりまし、よりわらわ)を務めていた。つまり客の祖先や死んだ家族の霊が憑依する女の子だったのだ。彼女の死因も表向きは事故死だが、実は呼び寄せた悪霊に取り憑かれて死んだという。小学生の頃祈祷の現場を目撃してしまった比奈子は莎代里から固く口止めされた過去がある・・

土俗的な雰囲気やじっとりした湿気が十分感じられます。美しい映像とは思いませんが不安を煽るカメラワークも良いと思いました。石仏の頭が破壊され、その先に日浦家にゆかりの怪しい土地への入り口が。上手にゾクゾクさせます。また、ある少年の死んだ祖父の姿がぼんやりと現れるシーンも好きです。後半に大破局、つまり死者たちの復活が訪れる予兆に違いないと思うからです。


『死国』:伝奇譚が恋愛譚にシフトダウンする肩すかし

霊峰石鎚山は西日本の最高峰:wikipediaより



ところが、後半は恋愛=三角関係話になります。小学生の時に比奈子、莎代里といつも行動をともにしていた秋沢文也(筒井道隆さん)は高校時代に莎代里と付き合っていました。しかしその莎代里は死に、比奈子が都会から戻って来ます。文也と比奈子の心が通いはじめます。そして結ばれます。一方、四国八十八箇所の逆打ち(さかうち。劇中ではぎゃくうち)を繰り返すことで莎代里の復活を願う莎代里の母日浦照子(根岸季衣さん)が重要な役割を担います。ついにその願いが実を結び、俗世に未練を残す亡者どもがうじゃうじゃと復活・・・と思ったら、蘇ったのは莎代里だけ。彼女は文也に強い未練がありました。邪魔になる比奈子は莎代里によってあわや、と思わせておいて、文也は莎代里を抱きしめ、ともに死にます。比奈子は成仏した人々が登るという霊峰石鎚山を眺めて感慨にふけるのでした・・肩すかしの後半でした。

文也はなぜ莎代里を抱きしめ、死んでいったのでしょう。私は最初、比奈子よりも莎代里を選んだという可能性に傾きましたが、エンディングで流れる米良美一さんの美しい歌声を聴いて、もう一つの解釈の方が正しかったのだと思い直しました。つまり、比奈子を生かすために自分が犠牲になったのだと。筒井道隆さんの演技力に騙されましたよ。皮肉を言ってごめんなさい。



ぼくは雨になり 君を守るだろう
ぼくは星になり 君を照らすだろう
ぼくは土になり 君に話すだろう
ぼくは時になり 君と生きるだろう

『Lyricsぼくは雨となり星となる』


『死国』:伝奇譚が恋愛譚にシフトダウンする肩すかし




批評

四国八十八ヶ所めぐり(遍路、へんろ)はループとなって完成(結願、けちがん)します。これは室町時代頃に成立した修行だと考えられています。しかしその起源伝承が空海に求められるなど、四国を一周するという意味ではもっと古くから修験者などによって行われていた可能性があります。私たち夫婦は漫画『陰陽師』(岡野玲子)や丹生都比賣神社の”のりと”によって、ピンを刺すように要所に参り、結界を張るという上古からの祈願方法を知っています。ループを作らない西国三十三箇所めぐりなどとは異なるこの四国八十八ヶ所めぐりの特異性、それはすなわち結界を張る事であるという本作の(つまり原作者の)説明はとても納得がいくものでした。これを機会に坂東眞砂子さんの著書に親しんで参りたいと思っています。

参考:「丹生都比賣神社:あなたは何者か、稚日女命」
壮大な結界を思わせるこの神社の告門、祝詞(のっと、のりと)を掲載しています。




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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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