2020年02月08日

『半世界』:稲垣吾郎さんが炭を焼く

データ
『半世界』

評価:☆☆☆☆☆☆・・・・
年度:2018年(製作) 2019(公開)
鑑賞:公開時にスクリーンで鑑賞。
監督:阪本順治
脚本:阪本順治
撮影:儀間眞悟
俳優:稲垣吾郎(高村紘) 長谷川博己 (沖山瑛介) 渋川清彦 (岩井光彦) 池脇千鶴 (高村初乃)
竹内都子  杉田雷麟  石橋蓮司  小野武彦
製作国:日本
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『半世界』:稲垣吾郎さんが炭を焼く

予告編より


コメント、批評

映画館で観た時には、正直なところ強い感銘は受けなかったのです。(舞台である)三重県南部の言葉遣いじゃなかったし。
ところがそれからざっと一年経って、本作の情景が時々ふっと蘇ります。その七割は稲垣吾郎さんが炭を焼いている時の表情、あとの三割は電車の中の池脇千鶴さんの表情です。ストーリーもおおむね記憶に残っています。思いの外染み込んでいるのです。というわけで、鑑賞直後に☆4〜5だった作品が今や☆6に(私の中で)格上げになりました。

鑑賞中にも思ったのですが、炭焼作業中の稲垣さんの表情が、「私が焼いてもこんな表情で作業するだろうな」と思わせました。私は木炭には全く素人ですが、ウバメガシを材料にした備長炭の本場近くに今住んでいます。炭焼きの現場も訪問しました。炭焼き作業にとても惹かれました。アマチュアの気分で炭を焼いている自分を想像しました。その想像上の自分と稲垣さんとがなんだか重なるのです。イケメン度は随分違いますが。


『半世界』:稲垣吾郎さんが炭を焼く

和歌山県田辺市にある備長炭記念公園にて


そうです、稲垣さんもアマチュアなのです。いえ、稲垣さん扮する高村紘がアマチュアなのです。父親とソリが合わなかった紘ですが、父の死後、父親への一種の意地があって炭焼きの職を継いでいます。しかし腕はまだまだで、得意先からじわじわと仕入れを断られています。アマチュアというよりまだ未熟なのです。ですがたった一人で懸命に炭と格闘しています。家事や子育ては妻に任せっきりで、息子は父親に不満がいっぱい。きっと紘と紘の父親との関係もそうだったのでしょうね。
稲垣さんはそんな紘の人間像をピタリと演じているのです。懸命だがまだ青い。。。

その妻を演じた池脇千鶴さんの現実感の表現は、いつものことですが超絶レベルです。稲垣さんも高村紘もどこか現実世界に根がおろし切れていない人柄ですが、その相棒に池脇さんを起用した阪本順治監督はさすがです。高村紘の旧友で重要人物の一人を演じた長谷川博己さんも糸の切れた凧のような空気をまとっていますから、池脇さんがいなければ、この作品自体がふわふわと虚空を漂う結果に終わっていたでしょう。池脇さんが演じた初乃は、子供や自分に心をこめてくれない夫に常に不満を抱いています。夫を求め、ようやくという夜に酔った友人が戸を叩きます(田舎あるある)。貧しくて忙しい生活に疲れ気味です。けれど不器用な(これ大抵言い訳ね)夫を助け、営業活動までします。リアルです。


『半世界』:稲垣吾郎さんが炭を焼く

予告編より


長谷川博己さんは大好きな役者ですが、稲垣さん同様器用ではありません。どんな作品に出演しても長谷川さんは長谷川さんですから。彼の演じた沖山瑛介は自衛官として中東に派遣され、過酷な現場での体験でPTSDになって帰国し、故郷の家で引きこもってしまっていました。そういう難しい役を現実感たっぷりにこなせる俳優ではありません。もう一人の旧友岩井光彦役の渋川清彦さんの好演により、二人の糸切れ凧に紐がついてはいますが。(岩井がトライアングルの要です。)

鑑賞時にはこの三人の空気感の違いがチグハグに感じて、どうも物語に引き込まれなかったのです。映画作りに時間をかけられなかったのだろうな、と思わせましたから。方言指導する暇もなく。でも今はチグハグで良かったのかと思うようになりました。それが当たり前なのだと。
池脇さんのおかげで本作をちょっぴりひいきしているのでしょうね、私。


それにしても、旧友の男三人の知性の不足にはがゆい思いが禁じ得ません。「半世界」、おまえは世界の半分しか知らないと互いを責めたり言い訳する気持ちもわからないではありません。誰だってすべてを経験できませんから。けれど、自分の日常と世界の現状とを結びつける考え方、生き方、想像力くらい、手探りでもしておいて欲しかったな。アラフォーなら。自分の力で生きているなら。自衛隊のエリートなら。
あなたは”自分側の世界”に流されているだけでしょ、と叱りたいです。そういう男たちを描いた映画ですから、この映画に映像以上の深さと広がりはないのです。高村紘さん、半世界の住人のまま死んだらあかんよ、病院くらい行っておきなさいよ、と医者嫌いの私が言うのもなんですが。



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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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