2019年12月04日
『悪魔の手毬唄』1977:市川+石坂金田一シリーズの最高峰
データ
『悪魔の手毬唄』
評価:☆☆☆☆☆☆☆・・・
年度:1977年
鑑賞:ビデオ、DVDで鑑賞。2019年BS/CSで再視聴。
監督:市川崑
原作:横溝正史
脚本:久里子亭
音楽:村井邦彦
俳優:石坂浩二 岸恵子 若山富三郎 三木のり平 辰巳龍太郎 加藤武 大滝秀治 白石加代子
常田富士男 北公次 永島暎子 高橋洋子 渡辺美佐子 草笛光子 仁科明子 頭師孝雄 山岡久乃
林美智子 岡本信人 小林昭二 原ひさ子 川口節子 大羽五郎 潮哲也 富田恵子 中村伸郎
製作国:日本
kinenoteの情報ページはこちら
予告編より。本文では触れていませんが、「おはんでございます。お庄屋さんのところに戻ってまいりました。」というこの峠の場面こそ、市川監督の映像の真骨頂だと思っています。ちなみに横溝正史さんの原作では、おはんでなくおりんでした。
コメント
なんでも多ければ良いというわけではありませんが、ざっと数えたところ、映画で13人、TVで15人の男優が金田一耕助を演じているというのはもしかしてギネスブックものではありませんか。かのジェームズ・ボンド映画が6人なのですから。
映画版でもっとも金田一耕助を演じた回数が多いのが片岡千恵蔵さん(7作)で、次いで本作の主演石坂浩二さんは6作。1950年生まれのわたしには、石坂浩二さん=金田一耕助さんとインプットされています。
wikipediaによれば、原作の金田一耕助さんは身長5尺4寸(163㎝強)・体重14貫(約52kg)で顔立ちはいたって平凡。一言で言えば風采の上がらぬ貧相な男ということになりましょう。これを身長177㎝でルックスが良く、いかにもインテリな雰囲気の石坂さんが演じたことが、かえって角川映画シリーズの大成功の鍵だったかもしれませんね。原作よりもずいぶんソフトで垢抜けた印象なのが時代にかなったのでしょうし、狂言回しとしてよくはまりました。その石坂さん主演のシリーズ作品の中で、私は本作がいちばんのお気に入りです。ショッキングなシーンの多い『犬神家の一族』(市川崑監督)よりも本作の方が映画としての完成度がやや高いのではないでしょうか。
本作を成功させた最大の功績は、岸恵子さんと若山富三郎さんというベテラン俳優二人の素晴らしい演技の賜物であるかと考えています。人物・人格や空気感まで漂うお芝居が、とても上等の映画を観た気分にさせてくれました。
岸恵子さん(青池リカ)
明るさの中に見え隠れする少し寂しげな表情とちょっぴり天然な人柄が魅力的です。
元は女芸人だった(その回想シーンまであります)という(しっかりした教育を受けていない)役柄と、彼女本来の垢抜けた華とが両立しているところがスターです。その人物像と、千恵(仁科明子さん)に自分の秘密を告白する場面の我が身を切り裂くような慟哭との対比が素晴らしい。
若山富三郎さん(磯川警部)
青池リカを慕う磯川の純情ぶりが眩しいくらいに感じられます。そもそもこの鬼首(おにこべ)村に金田一耕助を呼んだ動機はリカへの思いであることが後から呑み込めてきます。「愛していたんですね」「そうじゃ」・・・わからない方は本作を鑑賞してください(笑)磯川と金田一との掛け合い会話も、いかにも旧知の間柄感が出ていて温かくて素敵です。
それ以外にも、
神戸のボロ長屋が似合う三木のり平さん、
田舎の因襲の権化のような辰巳龍太郎さん、
息抜き役の加藤武さん、
頑固な寂しがり屋の大滝秀治さん、
屈託あるアル中の常田富士男さん、
連れ込み宿の山岡久乃さん、
娘の七光に輝く渡辺美佐子さん、
落ちぶれた旧家の当主草笛光子さん、
庶民の典型。好奇心を隠さない林美智子さん、
一癖二癖の中村伸郎さん、
などなど脇役陣が綺羅星の如く登場します。
中でも白石加代子さんの異様な怖さはもう震えがきましたよ、わたくし。身体の柔らかさにも驚嘆。『身毒丸』ナマで観たかったな。
主要配役も脇役も迫真の演技で、ともすれば型にはまりがちな金田一耕助映画に血を通わせています。
これはもうひとえに市川監督の演出の手腕といえるでしょう。
市川監督といえば、本作には大河内伝次郎さんの丹下左膳や、ゲーリー・クーパーさんとマルレーネ・ディートリッヒ さんの『モロッコ』の映像まで挟まれていて映画好きの心をくすぐります。これ以外にもあちこちに遊びがはめ込まれています。
楽しみながら制作したんですよね、監督。
「総社」
「鬼首村手毬唄」横溝正史さんの原作から
うちの裏のせんざいに
すずめが三匹とまって
一羽のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい枡屋の娘
枡屋器量よしじゃがうわばみ娘
枡ではかって漏斗で飲んで
日がないちにち酒浸り
それでも足らぬとて返された
返された
二番目のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい秤屋の娘
秤屋器量よしじゃが爪長娘
大判小判を秤にかけて
日なし勘定に夜も日もくらし
寝るまもないとて返された
返された
三番目のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい錠前屋の娘
錠前屋器量よしじゃが小町でござる
小町娘の錠前が狂うた
錠前狂えば鍵あわぬ
鍵があわぬとて返された
返された
ちょっと一貫貸しました
三谷幸喜さんの『古畑任三郎』シリーズで石坂浩二さんが登場する回に、この場面のオマージュがありましたね。思い出すだけで笑えます。「あへあへあへ」演じたのは吉田日出子さんでした。(本作では原ひさ子さん)
『悪魔の手毬唄』
評価:☆☆☆☆☆☆☆・・・
年度:1977年
鑑賞:ビデオ、DVDで鑑賞。2019年BS/CSで再視聴。
監督:市川崑
原作:横溝正史
脚本:久里子亭
音楽:村井邦彦
俳優:石坂浩二 岸恵子 若山富三郎 三木のり平 辰巳龍太郎 加藤武 大滝秀治 白石加代子
常田富士男 北公次 永島暎子 高橋洋子 渡辺美佐子 草笛光子 仁科明子 頭師孝雄 山岡久乃
林美智子 岡本信人 小林昭二 原ひさ子 川口節子 大羽五郎 潮哲也 富田恵子 中村伸郎
製作国:日本
kinenoteの情報ページはこちら
予告編より。本文では触れていませんが、「おはんでございます。お庄屋さんのところに戻ってまいりました。」というこの峠の場面こそ、市川監督の映像の真骨頂だと思っています。ちなみに横溝正史さんの原作では、おはんでなくおりんでした。
コメント
なんでも多ければ良いというわけではありませんが、ざっと数えたところ、映画で13人、TVで15人の男優が金田一耕助を演じているというのはもしかしてギネスブックものではありませんか。かのジェームズ・ボンド映画が6人なのですから。
映画版でもっとも金田一耕助を演じた回数が多いのが片岡千恵蔵さん(7作)で、次いで本作の主演石坂浩二さんは6作。1950年生まれのわたしには、石坂浩二さん=金田一耕助さんとインプットされています。
wikipediaによれば、原作の金田一耕助さんは身長5尺4寸(163㎝強)・体重14貫(約52kg)で顔立ちはいたって平凡。一言で言えば風采の上がらぬ貧相な男ということになりましょう。これを身長177㎝でルックスが良く、いかにもインテリな雰囲気の石坂さんが演じたことが、かえって角川映画シリーズの大成功の鍵だったかもしれませんね。原作よりもずいぶんソフトで垢抜けた印象なのが時代にかなったのでしょうし、狂言回しとしてよくはまりました。その石坂さん主演のシリーズ作品の中で、私は本作がいちばんのお気に入りです。ショッキングなシーンの多い『犬神家の一族』(市川崑監督)よりも本作の方が映画としての完成度がやや高いのではないでしょうか。
本作を成功させた最大の功績は、岸恵子さんと若山富三郎さんというベテラン俳優二人の素晴らしい演技の賜物であるかと考えています。人物・人格や空気感まで漂うお芝居が、とても上等の映画を観た気分にさせてくれました。
岸恵子さん(青池リカ)
明るさの中に見え隠れする少し寂しげな表情とちょっぴり天然な人柄が魅力的です。
元は女芸人だった(その回想シーンまであります)という(しっかりした教育を受けていない)役柄と、彼女本来の垢抜けた華とが両立しているところがスターです。その人物像と、千恵(仁科明子さん)に自分の秘密を告白する場面の我が身を切り裂くような慟哭との対比が素晴らしい。
若山富三郎さん(磯川警部)
青池リカを慕う磯川の純情ぶりが眩しいくらいに感じられます。そもそもこの鬼首(おにこべ)村に金田一耕助を呼んだ動機はリカへの思いであることが後から呑み込めてきます。「愛していたんですね」「そうじゃ」・・・わからない方は本作を鑑賞してください(笑)磯川と金田一との掛け合い会話も、いかにも旧知の間柄感が出ていて温かくて素敵です。
それ以外にも、
神戸のボロ長屋が似合う三木のり平さん、
田舎の因襲の権化のような辰巳龍太郎さん、
息抜き役の加藤武さん、
頑固な寂しがり屋の大滝秀治さん、
屈託あるアル中の常田富士男さん、
連れ込み宿の山岡久乃さん、
娘の七光に輝く渡辺美佐子さん、
落ちぶれた旧家の当主草笛光子さん、
庶民の典型。好奇心を隠さない林美智子さん、
一癖二癖の中村伸郎さん、
などなど脇役陣が綺羅星の如く登場します。
中でも白石加代子さんの異様な怖さはもう震えがきましたよ、わたくし。身体の柔らかさにも驚嘆。『身毒丸』ナマで観たかったな。
主要配役も脇役も迫真の演技で、ともすれば型にはまりがちな金田一耕助映画に血を通わせています。
これはもうひとえに市川監督の演出の手腕といえるでしょう。
市川監督といえば、本作には大河内伝次郎さんの丹下左膳や、ゲーリー・クーパーさんとマルレーネ・ディートリッヒ さんの『モロッコ』の映像まで挟まれていて映画好きの心をくすぐります。これ以外にもあちこちに遊びがはめ込まれています。
楽しみながら制作したんですよね、監督。
「総社」
「鬼首村手毬唄」横溝正史さんの原作から
うちの裏のせんざいに
すずめが三匹とまって
一羽のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい枡屋の娘
枡屋器量よしじゃがうわばみ娘
枡ではかって漏斗で飲んで
日がないちにち酒浸り
それでも足らぬとて返された
返された
二番目のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい秤屋の娘
秤屋器量よしじゃが爪長娘
大判小判を秤にかけて
日なし勘定に夜も日もくらし
寝るまもないとて返された
返された
三番目のすずめのいうことにゃ
おらが在所の陣屋の殿様
狩り好き酒好き女好き
わけて好きなが女でござる
女たれがよい錠前屋の娘
錠前屋器量よしじゃが小町でござる
小町娘の錠前が狂うた
錠前狂えば鍵あわぬ
鍵があわぬとて返された
返された
ちょっと一貫貸しました
三谷幸喜さんの『古畑任三郎』シリーズで石坂浩二さんが登場する回に、この場面のオマージュがありましたね。思い出すだけで笑えます。「あへあへあへ」演じたのは吉田日出子さんでした。(本作では原ひさ子さん)
Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)
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