2019年09月02日

『ハナレイ・ベイ』:開眼した吉田羊さん

データ
『ハナレイ・ベイ』

評価:☆☆☆☆☆☆・・・・
年度:2018年
鑑賞:2019年BS/CSで視聴。
監督:松永大司
原作:村上春樹
音楽:半野喜弘
俳優:吉田羊 佐野玲於 村上虹郎 佐藤魁 栗原類 
製作国:日本
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『ハナレイ・ベイ』:開眼した吉田羊さん

予告より


コメント

自立的で知的でシュッとしている感に好感が持てる吉田羊さん。
TVで拝見している限り、他の俳優と少し空気感が違うように感じていました。
このナイーブな印象は、空気を読む柔軟な演技力にやや難があるということの証左かもしれませんし、人物の奥行きの深さや内心の微妙な変化のワザは苦手な俳優なのかもしれない、と思っていました。

ところが本作では一転。いえ発展深化。
”自立的で知的でシュッとしている感”は維持しながら、それを逆手に取った演出が功を奏し、亡くした息子との関係をうまく整理できなかった母親がついに真実に向き合い折り合いをつける、という瞬間にいたる変化をみごとに演じ切りました。
自他に厳しかった人物が、自他を赦す柔らかい心境への変化が肝である本作において、周囲に馴染まぬ空気感を持つ女優吉田羊さんだからこそ説得力を持ち得たのだとそう思いました。

成功をもたらしたその意味において、本作は特に監督(松永大司)を賞賛せねばなりますまい。
そして助演の村上虹郎さんがいい味だった(若いのに)ことを付け加えておけば事足ります。
あ、ダメ男の栗原類さんも。

内容を詳しく語ることはしません。
村上春樹さんファンであろうとなかろうと、それを忘れて一度ご覧になればと思う映画でした。

私は垣間見る村上春樹さんの文章の「持ってまわり方(失礼)」がかなり好きですが、小説はほとんど読んでいません。
その点で妻は(本作の原作は未読ですが)春樹さんの小説に馴染みがあります。
妻によれば、春樹さんの小説にはしばしばモティーフとして”喪失”が取り上げられているそうです。
本作もまさしく喪失から始まる物語です。

鑑賞中に私は、江藤淳氏の文学批評『成熟と喪失 母の崩壊』(←初出版時から修正されるも今なお必読書)を連想しました。内容よりもその題名です。江藤氏に敬意を評して本作のタイトルを冗談半分につければ、『息子の喪失 母の崩壊と成熟』というところかと思います。
失礼しました。




Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)
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