2018年12月26日
『白昼堂々』:ハイレベルな演技の調和
データ
『白昼堂々』
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆・・
年度:1968年
鑑賞:2018年BS/CSで視聴。
監督:野村芳太郎
原作:結城昌治
音楽:林光
俳優:渥美清(ワタカツ)倍賞千恵子(ヨシコ) 藤岡琢也(富田銀三) 有島一郎(森沢刑事)
高橋とよ(森沢タツ子) 大貫泰子(富田桃江) 三原葉子(富田春子)
新克利 生田悦子 江幡高志 田中邦衛 佐藤蛾次郎 フランキー堺 穂積隆信 山本幸栄
坂上二郎(コント55号) 萩本欣一(コント55号)
製作国:日本
allcinemaの情報ページはこちら
写真はすべて予告編から
コメント、批評
野村芳太郎監督の手になるコメディの傑作です。
原作は結城昌治(1927 - 1996)さん。
十代の私が愛読した作家の一人でした。『ゴメスの名はゴメス』や『軍旗はためく下に』、『風変わりな夜』など、少しクールで軽めの文体で、ある時はシリアスにまたある時はユーモラスに物語を紡いでくれました。
本作の原作『白昼堂々』もまた、達者な筆致で書かれた軽快な犯罪小説だったと記憶しています。
福岡県の某郡某町の「通称泥棒村」の実話をベースにフィクション化したこの小説を、さらに喜劇色を強めて映像化した作品です。
石炭不況、炭鉱閉鎖が続く筑豊エリアは、初期高度成長期の活況に沸く日本の都会の「発展」から急激に取り残されていったため、炭鉱に依存していた人々は皆、別の生業を求めて四苦八苦していました。
そんな筑豊と都会とを舞台にした万引き集団の物語です。
この万引き集団は、家族ではないのにまるで仲の良い家族のように助け合い、協同して働いていました。(犯罪ですが)
そう、ことし秀作『万引き家族』を公開した是枝裕和監督は、きっとこの作品を見たに違いないと思います。
万引き集団の親分、ワタカツを演じる渥美清さんが、流麗で水のように美しい演技で魅了します。
新たに集団に加わったヨシコ役の倍賞千恵子さんの、都会の匂いのする新しい女性像表現がこの喜劇の質を浄化します。
それにしてもこの二人が寅次郎とさくらという固定的な役柄に長年縛り付けられていく(私にはそう見える)のは、日本映画界の悲劇だったと思うのです。
『男はつらいよ』シリーズが始まったのは、本作公開の翌年でした。
藤岡琢也さんも出色です。スリ稼業から足を洗ってデパートの保安係になった銀三役です。カタギになった彼は、苦境にある炭鉱町の仲間を束ね生きていく道を探すワタカツとの友情に引きずられ、結局は犯罪に加担していきます。その間の苦悩が誠にみごとに表現されています。台詞回しの巧みさも相まって、
事実上の主役と言っても良いでしょう。
喜劇役者有島一郎さんの芝居には、子供の私は何度もTVで涙を流した記憶が残っています。気骨と正義感、そして庶民的な風情を体全体から漂わした刑事役はまさにはまり役です。
それ以外にも、フランキー堺さん(←必見)や田中邦衛、三原葉子さんなどの芸達者が揃い、文句なしの演技の競演となりました。
人気絶頂期のコント55号の姿が見られるのも嬉しいですね。
それにつけても思うのです。これらアクの強い役者・タレント陣が思う存分表現し、しかも誰一人として映画作品にある見えない天井を突き破らず、みごとな調和を実現していることは稀有なことである、と。
真の喜劇はペーソスに裏打ちされていなければならないと私は信じているのですが、生活感に根ざしたペーソスがすべての役者から感じられます。
キャスティング・演出の両面で、野村芳太郎監督の手腕を大いに褒めなければなりますまい。
寂れた筑豊の風景、そして華やかな東京の風景を懐かしく見ることができるのも、旧作をいま観る喜びの一つであることは言うまでもありません。そうそう、百貨店はここから全盛期を迎えました。東京湾に水上バスが走っていたのですね。
批評
この時代の炭鉱事情を知るためには、
一つには上で少し触れた石炭不況、つまり(日本における)エネルギー源が石炭から石油へ移行したいわゆる「エネルギー革命」の経緯と目的、そして問題点について基礎的な学びを行なって欲しい。
次に、戦後になっても三池三川炭鉱粉塵爆発(wikipediaによると、1963年11月9日には三井三池三川炭鉱炭じん爆発が発生し、戦後最悪となる458人の犠牲者と839人の一酸化炭素中毒患者を出した。)など多くの事故が起きたことと、そのような危険な仕事に就いていたのはどのような階層の人々であったかという日本社会の構成上の問題について学んで欲しい。
さらに、三井三池争議(1959~60年にかけて発生した労働争議。)の学びを通じて、財閥と労働者という視点から日本社会の構造を見抜いて欲しい。
ちなみに、私が<社会>に強い関心を持ち始めたきっかけは、TVを通じて見たこの争議と蜂の巣城事件でした。
このブログで詳しく説明はしませんが、近代日本とは何であったか、炭鉱の学習から見えてくるものはすこぶる多いと考えています。
筑豊(川崎町)出身の芸者歌手赤坂小梅さんが歌う「正調炭礦節」。この民謡の発祥地は、三井三池炭鉱。いわゆる筑豊炭田とは鉱脈が異なるが、やはり九州北部の炭鉱だ。
yarukyo893さんのYoutubeから。
『白昼堂々』
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆・・
年度:1968年
鑑賞:2018年BS/CSで視聴。
監督:野村芳太郎
原作:結城昌治
音楽:林光
俳優:渥美清(ワタカツ)倍賞千恵子(ヨシコ) 藤岡琢也(富田銀三) 有島一郎(森沢刑事)
高橋とよ(森沢タツ子) 大貫泰子(富田桃江) 三原葉子(富田春子)
新克利 生田悦子 江幡高志 田中邦衛 佐藤蛾次郎 フランキー堺 穂積隆信 山本幸栄
坂上二郎(コント55号) 萩本欣一(コント55号)
製作国:日本
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写真はすべて予告編から
コメント、批評
野村芳太郎監督の手になるコメディの傑作です。
原作は結城昌治(1927 - 1996)さん。
十代の私が愛読した作家の一人でした。『ゴメスの名はゴメス』や『軍旗はためく下に』、『風変わりな夜』など、少しクールで軽めの文体で、ある時はシリアスにまたある時はユーモラスに物語を紡いでくれました。
本作の原作『白昼堂々』もまた、達者な筆致で書かれた軽快な犯罪小説だったと記憶しています。
福岡県の某郡某町の「通称泥棒村」の実話をベースにフィクション化したこの小説を、さらに喜劇色を強めて映像化した作品です。
石炭不況、炭鉱閉鎖が続く筑豊エリアは、初期高度成長期の活況に沸く日本の都会の「発展」から急激に取り残されていったため、炭鉱に依存していた人々は皆、別の生業を求めて四苦八苦していました。
そんな筑豊と都会とを舞台にした万引き集団の物語です。
この万引き集団は、家族ではないのにまるで仲の良い家族のように助け合い、協同して働いていました。(犯罪ですが)
そう、ことし秀作『万引き家族』を公開した是枝裕和監督は、きっとこの作品を見たに違いないと思います。
万引き集団の親分、ワタカツを演じる渥美清さんが、流麗で水のように美しい演技で魅了します。
新たに集団に加わったヨシコ役の倍賞千恵子さんの、都会の匂いのする新しい女性像表現がこの喜劇の質を浄化します。
それにしてもこの二人が寅次郎とさくらという固定的な役柄に長年縛り付けられていく(私にはそう見える)のは、日本映画界の悲劇だったと思うのです。
『男はつらいよ』シリーズが始まったのは、本作公開の翌年でした。
藤岡琢也さんも出色です。スリ稼業から足を洗ってデパートの保安係になった銀三役です。カタギになった彼は、苦境にある炭鉱町の仲間を束ね生きていく道を探すワタカツとの友情に引きずられ、結局は犯罪に加担していきます。その間の苦悩が誠にみごとに表現されています。台詞回しの巧みさも相まって、
事実上の主役と言っても良いでしょう。
喜劇役者有島一郎さんの芝居には、子供の私は何度もTVで涙を流した記憶が残っています。気骨と正義感、そして庶民的な風情を体全体から漂わした刑事役はまさにはまり役です。
それ以外にも、フランキー堺さん(←必見)や田中邦衛、三原葉子さんなどの芸達者が揃い、文句なしの演技の競演となりました。
人気絶頂期のコント55号の姿が見られるのも嬉しいですね。
それにつけても思うのです。これらアクの強い役者・タレント陣が思う存分表現し、しかも誰一人として映画作品にある見えない天井を突き破らず、みごとな調和を実現していることは稀有なことである、と。
真の喜劇はペーソスに裏打ちされていなければならないと私は信じているのですが、生活感に根ざしたペーソスがすべての役者から感じられます。
キャスティング・演出の両面で、野村芳太郎監督の手腕を大いに褒めなければなりますまい。
寂れた筑豊の風景、そして華やかな東京の風景を懐かしく見ることができるのも、旧作をいま観る喜びの一つであることは言うまでもありません。そうそう、百貨店はここから全盛期を迎えました。東京湾に水上バスが走っていたのですね。
批評
この時代の炭鉱事情を知るためには、
一つには上で少し触れた石炭不況、つまり(日本における)エネルギー源が石炭から石油へ移行したいわゆる「エネルギー革命」の経緯と目的、そして問題点について基礎的な学びを行なって欲しい。
次に、戦後になっても三池三川炭鉱粉塵爆発(wikipediaによると、1963年11月9日には三井三池三川炭鉱炭じん爆発が発生し、戦後最悪となる458人の犠牲者と839人の一酸化炭素中毒患者を出した。)など多くの事故が起きたことと、そのような危険な仕事に就いていたのはどのような階層の人々であったかという日本社会の構成上の問題について学んで欲しい。
さらに、三井三池争議(1959~60年にかけて発生した労働争議。)の学びを通じて、財閥と労働者という視点から日本社会の構造を見抜いて欲しい。
ちなみに、私が<社会>に強い関心を持ち始めたきっかけは、TVを通じて見たこの争議と蜂の巣城事件でした。
このブログで詳しく説明はしませんが、近代日本とは何であったか、炭鉱の学習から見えてくるものはすこぶる多いと考えています。
筑豊(川崎町)出身の芸者歌手赤坂小梅さんが歌う「正調炭礦節」。この民謡の発祥地は、三井三池炭鉱。いわゆる筑豊炭田とは鉱脈が異なるが、やはり九州北部の炭鉱だ。
yarukyo893さんのYoutubeから。
Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)
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