2018年12月02日

『ガントレット』:アメリカ版小栗判官と照手姫の物語

データ
『ガントレット』

評価:☆☆☆☆☆☆・・・・
年度:1977年
鑑賞:かつて民放TVで視聴。2018年BS/CSで再視聴。
監督:クリント・イーストウッド
音楽:ジェリー・フィールディング
俳優:クリント・イーストウッド(ベン・ショックリー) ソンドラ・ロック(ガス・マリー)
パット・ヒングル ウィリアム・プリンス
製作国:アメリカ
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『ガントレット』:アメリカ版小栗判官と照手姫の物語




批評

米国の都市ラスベガスとフェニックス(フィーニクス)とは約400㎞の距離があります。
(その途中の砂漠地帯にはあの『バグダッド・カフェ』の舞台となったバグダッドの町があります。)
主人公ベン・ショックリーはフェニックスの刑事。
華々しい業績のない、酒飲みの冴えない中年警官です。
ベンは警察長官直々の命令で、ラスベガスから裁判の証人をフェニックスまで一人で護送することになります。
その証人がガス(オーガスタ)という名の大卒の娼婦。
その護送中に不可解で危険な妨害が入り、それをすり抜ける危機を通じて、ベンと護送されるガスとの間に恋が芽生えます。
妨害はマフィアと警官によって行われます。その銃撃戦の結果、ベンは警官を殺害したというデマが広まります。
ベンはあくまでガスの護送にこだわり、フェニックスを目指します。
改造バスでフェニックスに乗り付ける有名なシーンでは、無数の(仲間であるはずの)警官による無数の射撃を浴びます。
最後にベンは任務を果たし、妨害の黒幕は死にます。
ま、それが物語のほぼ全てです。

フェニックスもラスベガスも砂漠に誕生した都市ですから、夏の日中は酷暑(フェニックスの7月の日平均気温が35度近い)ですが、夜間は冷えます。
銃撃から逃れた二人が砂漠の洞窟の中で焚き火を起こし暖をとるシーンがあります。
映像がとても美しく印象に残ります。
ここは二人の関係が質的に変化する、互いに敬意または恋慕が生まれる重要な場所です。
その場所がまるで子宮のような洞窟であるところが、イーストウッド監督の意図的な選択だったと思います。
冴えない男ベンが、ガスの知性という刺激によってこの場所でようやく事態を把握し、決断力溢れる人物に変化します。

そして終盤の有名なガントレット(意味は下記に)の試練を迎えます。
仲間である警官たちの列の間をあえてゆっくりと走行するバスに乗った二人は、まるで産道という窮屈な場所をくぐり抜ける胎児のように見えます。
バスは警官たちによる容赦ない銃撃を受けます。
しかしついにバスはシティーホールに到着します。
これはベンにとって新たな自分の誕生という意味なのでしょう。

自らの悪業のため病魔に侵されたが、照手姫の励ましでひきぐるまに乗っての辛苦に満ちた熊野詣を成し遂げ、ついに再生した小栗判官の物語を思い起こすのは私だけでしょうか。


<ガントレットgauntletとは?>
wikipediaから引用します。(画像も)
仲間の兵に殺させるという刑罰は、ローマ以後のヨーロッパの軍隊にも見られる。これがガントレットであった。罰を受ける兵士は軍装を脱がされ、二列に並んだ兵士の間(「die Gasse」、「小道」とも呼ばれる)を通らされ、棍棒や鞭やほこや槍を持った仲間たちに殴られた。その間、剣を持った下級士官が罰を受ける兵士の前を歩き、罰を受ける兵士が殴られる間走り抜けられないようにした。罰を受ける兵士が手首を縛られて列の間を引きずられる場合もあれば、殴られる代わりに突かれる場合もあった。
・・・
軍隊によっては、ガントレットの間を走りぬけて反対側へとたどり着けた場合には、過ちは償われたとみなされて部隊に戻ることを許される場合もあった。しかし反対側にたどり着いてもまた列の間に戻され、ガントレットの間を死ぬまで歩かされる場合もあった。


『ガントレット』:アメリカ版小栗判官と照手姫の物語




コメント

クリント・イーストウッドさんの監督作品には、覚醒や再生というモティーフがしばしば扱われます。
(最も分かりやすい例が『グラン・トリノ』でしょうか)
本作もそれがそのままテーマになっています。
『ダーティ・ハリー』(1971)のキャラハン刑事ようなやや超人的なヒーローから抜け出したくて作り演じた本作なのでしょう。
我々視聴者にはキャラハンのイメージがやはり残っているので、監督が意図したようなダメ刑事を100とすれば、70くらいのダメさしか伝わらないのが惜しいところ。
でもこれは仕方ありません。彼は演技派俳優ではありませんので。

それに対し、ソンドラ・ロックさんの演技力には感心しました。
高級娼婦に見えるかというとそうとも言い切れませんが、ベンを叱り、励まし、真実に目覚めさせる全力演技はたいしたものだと思いました。
彼女は当時クリントさんの愛人だったというエピソードがあり、そのことがこの好演に影響したのかもしれませんが、そういう俳優の私生活に目を向けるつもりはありません。
作品としてやや生煮えで出汁がわずかに薄い印象は残りますが、やはり興味深い一作です。



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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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