2018年10月22日

『ラブ&ピース』:カメちゃんうれしそうね

データ
『ラブ&ピース』

評価:☆☆☆☆☆☆☆☆・・
年度:2015年
鑑賞:封切り時にスクリーンで鑑賞。2018年DVDで再視聴。
監督:園子温
特技監督:田口清隆
主題歌:RCサクセション『スローバラード』
俳優:長谷川博己(鈴木良一) 麻生久美子(寺島裕子) 大谷育江(ラブちゃんの声) 
   西田敏行 中川翔子(マリアの声) 犬山イヌコ(スネ公の声) 星野源(PC-300の声)
   渋川清彦 奥野瑛太 マキタスポーツ 深水元基 手塚とおる 松田美由紀 神楽坂恵
製作国:日本
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『ラブ&ピース』:カメちゃんうれしそうね




コメント

園子温監督の会心作です。
ジャンルは怪獣特撮映画、いえ、ファンタジー。
切ないファンタジー。
子供と一緒に観られる園子温映画(笑)


主役は冴えない青年です。演じるのは長谷川博己さん。
音楽(バンド)を諦めて就職したのですが、大きな会場でのライブを夢見ています。
職場で背中に「廃棄」のラベルを貼られるなど同僚からいじめられていた青年は、ある日ふと買った子ガメ(ピカドンからラブちゃんに改名)と心を通わせます。
しかしその子ガメをこっそり勤務先に連れていったところ見咎められ、さらにいじめられる結果に。

青年はあろうことか子ガメを泣く泣くトイレに流してしまいます。なんてやつだ。
子ガメは下水を漂い、ある場所に漂着します。

そこは廃棄されてしまった人形やぬいぐるみ、ペットたちの居場所。
ゴミにされてしまった人形たちは、その場所の管理人のような謎の老人と心を通わせます。
みんな捨てられた身の上なのに、多くは「ご主人」をかばい、恋い慕っています。
流れ着いた子ガメもやはり「ご主人」を恨むことはなく、その幸せを念じ、願いを叶えてあげようとします。

・・・
地上と地下、全く別の世界どうしが、ラブちゃんという交差点で繋がるのです。
二つの異次元の世界で物語が進行するので、大作を鑑賞したような充実感が味わえ、お得です(笑)。

その大作ぶりにダメを押すのが、終盤の圧倒的な特撮です。
ご主人の願いを叶えるたびに巨大化した子ガメのラブちゃんは、ついに東京都庁までぶち壊します。
地表の権威の象徴のような都庁を破壊し、爽快です。


ルサンチマン※① 溢れるちっちゃい男鈴木良一のエレベーターのような人生の一コマを長谷川博己さんがコミカルに好演。
監督が最初に映画化しようとした時、この役を忌野清志郎さんにオファーしたとか。
長谷川さん、ギターや歌の練習は大変だったでしょうね。

その想いびと寺島裕子を演じる麻生久美子さんは持ち前のインディーズな匂い。
決して笑わないダサいダサい女性像を貫きます。

謎の老人役の西田敏行さんの台詞回しはもはや神業。
ちょっと代役はききません。

そしてこれら生きた人間たちにもまして、棄てられても再び可愛がってもらえる夢を見る人形マリアの哀愁と、
(中川翔子さん素晴らしい)
捨てられたネコぬいぐるみスネ公のの屈折
(心情の通う声は犬山イヌコさん)
棄てられても鈴木良一の望みを叶えることが生きがいになった可愛すぎるラブちゃんの純情に
(ピカチュウ大谷育江さんの声がたまりません)
私の涙腺は緩みっぱなしになるのでした。

「カメちゃんうれしそうね」マリア


※①ルサンチマン(仏: ressentiment)
弱者が強者に対して、「憤り・怨恨・憎悪・非難」の感情を持つこと。(wikipedia)
キェルケゴール→ニーチェという実存主義思想家による造語。



たくさんの小ネタも満載です。
それはあるときは箴言(しんげん)のように観客の脳髄に釘を打ち込み、
またあるときは観客のハートを羽根箒のようにくすぐります。

例えば、
東京五輪とピカドン(原爆の異名)の並立や、
そのピカドンの代わりの歌詞がラブ&ピースになったことや、
『地獄でなぜ悪い』の挿入歌「全力歯ぎしりレッツゴー」の歌や、
忌野清志郎そっくりの衣装で歌う鈴木良一や、
きらびやかなクリスマス前の地上と薄暗く臭い地下の下水道世界との対比や、
『ファインディング・ニモ』のニモのようにトイレに流されるピカドンや、
『未来世紀ブラジル』の劣化コピーのように舞う書類や、
田原総一郎さんの討論番組が総力をあげて鈴木良一をディスりにかかることや、
・・・
ほんとうに盛りだくさんで楽しめます。


『ラブ&ピース』:カメちゃんうれしそうね




コメント2

西田敏行さん演じる謎の老人は実はサンタクロースなのでした。
毎年子どもたちに贈ったプレゼントが無残な姿で捨てられたり、下水に流れついたりします。
老人はその人形やぬいぐるみやペットたちに話ができる飴をなめさせ、
次のクリスマスまで一緒に暮らしているのです。
クリスマスがやってくると、老人は彼らを眠らせ、記憶を消し、新品や子犬などに戻してもう一度子どもたちに配るのです。

でも彼らは何度も何度も繰り返し下水に流れ着くのです。
マリアがクリスマスのショーウィンドーを理由はわからないまま懐かしそうに見入っている姿が忘れられません。

どうぞ、大切にしてあげてくださいね。



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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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