2018年11月08日

『シザーハンズ』:コクのあるおとぎ話

データ
『シザーハンズ』
EDWARD SCISSORHANDS
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆・・
年度:1991年
鑑賞:封切り時にスクリーンで鑑賞。その後数回ビデオで鑑賞し、映画館で再視聴。
監督:ティム・バートン
音楽:ダニー・エルフマン
俳優:ジョニー・デップ(エドワード・シザーハンズ) ウィノナ・ライダー(キム)
   ダイアン・ウィースト(ペグ) アンソニー・マイケル・ホール キャシー・ベイカー 
   アラン・アーキン ヴィンセント・プライス
製作国:アメリカ
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『シザーハンズ』:コクのあるおとぎ話




コメント・批評

午前十時の映画祭で上演していたので、久しぶりに鑑賞。
やはりコクがあっておもしろいな、この作品は、と再確認しました。
雪の華が散る場面でウィノナ・ライダーさんが踊る場面は映画史に残る美しさ。
本作はカップルがクリスマスに観る映画として最適です。
でも、ただのロマンティック話ではありません。

本作は、まるで映画のセットのような(セットなのですが:笑)キッチュな街並みを映し出すことから始まります。
その後も、エドワーズの住む山を除けば、ほぼこのキッチュな「世界」で物語は進行します。
おとぎ話の衣装を映画の身にまとわせて、その実、現実世界こそがキッチュだと監督は言うかのようです。

映画の中で根っからの善人はエドワード(ジョニー・ディップさん)ただ一人。
山からやってきた人造人間。
なのにキッチュな世の中でただ一人だけ「実存」する。
もちろん現実にそんな人類は存在しませんし、
存在したとしたら、ふつうの生き方では生存できませんから、
創造主の科学者は彼に武器/凶器にも使えるシザーを与えたわけです。

ところが創造主は何の気まぐれか、
エドワードならやっていけると考えたのか、
自分の死期を悟って、愛される姿に変えて野に放とうと思ったのか、
創造主は考えを変えて、シザーの替わりにホンモノの腕を用意。
でも遅過ぎました。

終盤で、シザーは本物の凶器となり、人を殺めます。
しかしその野蛮は一瞬で終わり、愛する人は傷つけません。
その後は毎年クリスマスの時期に雪を降らせるという優しい使い道がシザーハンズの役目。
エドワードはおそらく永遠に生き続けることでしょう。

ホンモノの腕を持っていたならキッチュにまみれ、きっと長生きはできなかったはず。
だとすると、遅過ぎたわけではなかったのでしょうか。それとも、
愛されることがなかった淋しさは死ぬより辛かったでしょうか。あるいは、
愛されているはずだと信じて氷を削り続けたのでしょうか。

エドワードがシザーハンズという武器を持っていることには、たくさんの示唆が含まれています。
例えば現存するほとんどの国家は国家軍(名称が国防軍であろうと自衛隊であろうと)を有しています。
軍事力を持った国家が他の国家国民から愛され敬意を払われることがありうるでしょうか。
真に友好的な外交は、軍事力というシザーハンズを捨て、やさしく相手をハグできる手に付け替えることでしか実現できないのではないでしょうか。
とかね。

全編を通じて、アイロニーに充ちたオトナの映画。
このような「毒素」を、最近のティム・バートンさんは失ってしまったように見えます。


最初の鑑賞時、出演者の中で、ダイアン・ウィーストさんの演技がいちばん印象に残りました。
キム(ウィノナ・ライダー)さんの母親ペグ役。
エドワードを一人かばい、家に迎え入れた理解者です。
彼女がキッチュな街並みのご近所さんのドアチャイムを鳴らし、「エイボンレディー」と告げる場面から、私はこの映画の世界に取り込まれたのでした。
のちに、彼女がアカデミー助演賞を二度受賞した女優だと知った時は、そりゃあそうだろうなと思いました。



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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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