2018年04月16日

『太陽がいっぱい』:死んだ魚の

データ
『太陽がいっぱい』(原題『PLEIN SOLEIL』)
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆☆・
年度:1960年
鑑賞:1960年代から地上波で数回視聴。2011年スクリーンで初鑑賞。
監督:ルネ・クレマン
原作:パトリシア・ハイスミス
音楽:ニーノ・ロータ
俳優:アラン・ドロン(トム・リプレー、or リプリー) マリー・ラフォレ(マルジュ・デュヴァル) 
   モーリス・ロネ(フィリップ・グリーンリーフ) 
   エルノ・クリサ ビル・カーンズ フランク・ラティモア アヴェ・ニンチ ヴィヴィアーヌ・シャンテル
製作:フランス/イタリア
allcinemaの情報ページはこちら


『太陽がいっぱい』:死んだ魚の

午前十時の映画祭より


コメント

20世紀、二度にわたる大戦後に再び明らかになった欧米という格差社会。
「平和」の下で資本による搾取はむしろ増加し、貧富の差は広がっていく。
そんな時代の貧しい側の一人の申し子の物語。

野心と嫉妬に燃え、ねじ曲がった上昇志向に取り憑かれた貧しい青年の犯罪を描いて比類がない。
富裕層に属する観客であっても、その心は次第にリプレーと同化していく。
それほど卑しくそれほど凄みがありそれほど美しいアラン・ドロン!
そして音楽と映像との幸せなマリアージュ。
疑うことなく傑作。

ただし、いま、
もし観客の若いあなたが、
心がすり減り尖りを失っていて、
人生の船のオールを他人に任せているなら(by 中島みゆきさん)、
この映画は独りよがりの若者の退屈な犯罪映画にすぎないはず。



批評

「午前十時の映画祭」のおかげで、古い名作映画をスクリーンで鑑賞できるのは嬉しいことです。
このルネ・クレマン監督の「太陽がいっぱい」も今度が初スクリーンでした。
1960年製作のこの作品は、封切り時に観るにはちと私は子供すぎました。
ただ、その後何度もTVで放送されましたので、若い頃に数回観ています。
しかしそれは白黒TVの時代だったのです。我が家は。
今回、今更ながら、カラー作品であることが確認できた次第です(笑)

もっとも、白黒(と呼ぶこと自体が古いのですが)映像でも、この映画の主要な魅力を感じ取るのに不自由はありませんでした。
それどころか、アラン・ドロンの屈折と野望に充ちた表情は、白黒の方が勝って受けとめられたかもしれません。
けれど今回、ストーリーとはやや離れた部分で大きな発見があったのですが、
それはカラーゆえ気がついたことのように思います。

少し話題は逸れますが、
映画『ゴッドファーザー』をご覧になった方なら、
殺し屋ルカが酒場で殺された後、
ルカが着用していた防弾チョッキに死んだ魚がくるまれてコルレオーネ家に届けられたことで、
コルレオーネファミリーは、ルカが既に殺され、海に沈められたことがわかる、
そういうシーンを記憶しておられるでしょう。

このシチリアの作法は、
地中海一帯に普遍的なイメージだったのでしょうか。
死んだ魚は海に沈んだ人間を想起させるのでしょうか。

「太陽がいっぱい」の中で、
リプリーが海辺の町の市場を徘徊するシーンがあります。
白黒で見ていた頃、
わたしはあのシーンはリプリーの漠たる心の不安を示しているのだと解釈しましたが、
フランス映画にママある、雰囲気重視な場面だと感じていたのです。

ところがカラーで観ると、
様々な色が溢れる市場の中で、
モノトーンの死んだ魚のアップだけが際立ってわたしの目に飛び込んでくるのです。
地面に落とされた巨大魚の頭の部分の映像など特に。

また、リプリーがマルジェたちと食事をとることになった際、
ウエイターが魚料理を間違えて運んで来るシーンがあります。
皿の上の大きな魚は切り身ではなく尾頭付きです。

死んだ魚を強調するこれらの、一見余分な映像は、
リプリーの心の不安を非常に効果的に示しているだけでなく、有名なラストシーンをも暗示する、
クレマン監督の悪戯を兼ねた伏線のように思いました。
意地悪抜きでフランス映画は語れませんからね。


『太陽がいっぱい』:死んだ魚の

TV画面より


1970年代の鬱屈して孤独な青年たちは、
「トラヴィス・ビックルはオレだ」(『タクシー・ドライバー』)
と感じましたが、
1960年代の同様の若者は、
「トム・リプレーはオレだ」
と思ったのでしょうか。

しかし、モヒカンヘアにすることすら容易でないのに、
アラン・ドロンのあの目を真似することは
彼らには不可能に近いことだったでしょう。



同じカテゴリー(映画)の記事

Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。