『未知との遭遇』:どこが友好的やねん

gadogadojp

2020年02月10日 10:00

データ
『未知との遭遇』
Close Encounters of the Third Kind
評価:☆☆☆☆☆☆・・・・
年度:1977年
鑑賞:公開時スクリーンで、その後ビデオで鑑賞。2020年BS/CSで「ファイナルカット版」を初視聴。
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:スティーヴン・スピルバーグ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
俳優:リチャード・ドレイファス、テリー・ガー、メリンダ・ディロン、ケイリー・ガフィー、
   フランソワ・トリュフォー
製作国:アメリカ
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コメント、批評


雑然と書かせていただきます。

大作です。同年(1977)に公開された『スター・ウォーズ』とともに、「こんなものが見たかった」感が満載で、人類が抱くSF的宇宙の映像を確定させたエポック・メイキングな作品です。本作における異星人の船の光と音の洪水のシーンを超える「接触」は以降もありません。その部分だけを取り上げれば、☆は文句なしに10ケです。

けれど、本作には『スター・ウォーズ』のような爽快感は乏しく、結論が曖昧で、少々後味の悪さが残る”奇妙な味”小説(ロアルド・ダール,サキなど)を読んだ後のような割り切れなさが残ります。これを監督の意図したものと考えるのか否か、あるいは長所と見るか短所と見るかで本作への評価は大きく変わるでしょう。

重要な登場人物は五人。他の登場人物は付け足しに過ぎない扱いになっています。
ロイ・ニアリー(リチャード・ドレイファスさん)とその妻ロニー・ニアリー(テリー・ガーさん)。
ジリアン・ガイラー(メリンダ・ディロンさん)とその息子バリー・ガイラー(ケイリー・ガフィーさん)。
そしてクロード・ラコーム(フランソワ・トリュフォーさん)。
中でもリチャード・ドレイファスさんのさすがの演技は、取り憑かれ半ば狂っていく男の姿を熱演し、大型画面に負けない存在感を放っています。ただしすこぶるオタクっぽく、まったく爽快感がない役どころです。(爽快感が欲しいわけではありませんよ)

物語の後半で、デビルズタワー(岩山)に登ったのはロイとジリアンだけでなく、もう一人男性がいました。役名を忘れてしまうほど存在は希薄で、足を痛めて置き去りになります。彼がどういう人物なのか、UFOとどういう接触をしたのか、その描写はなく唐突に登場して消えていきます。

ニアリー家は周囲に家がない寂しい場所の一軒家ですし、母子家庭ガイラー家も孤絶した環境です。ファイナルカット版ではロイが電気技師らしいことはわかりますが、ジリアンの収入源は示さないままです。ご近所付き合いも困ったときの相談相手もなく、両家にはどうもリアリティが感じられません。

要するに本作の主役は結局のところUFOなのです。スピルバーグ監督は本作でも人間の生活や人格を描くことに興味はなく、UFOに取り憑かれた人間を描きたいだけなのです。ですからおざなりに扱われた人間たちはジオラマに刺された人形に過ぎません。最初に書いた読後感の悪さや割り切れなさは結局ここに起因しているのではありませんか。


『激突!』に驚いて以来、スティーヴン・スピルバーグさんは間違いなく才能のある映画人だと私は看ていました。そういう期待を込めて12,3作品を鑑賞しましたが、のめり込んでしまったのは初期の『激突!』と『ジョーズ』だけにとどまります。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』や『E.T.』以降の作品はめちゃめちゃおもしろいだけの大作作品か、『シンドラーのリスト』のように使命感に燃えて製作した割に底の浅い作品としか出会えていません。そのリストの中で本作『未知との遭遇』は過渡期の性格を持っているように思います。

『激突!』と『ジョーズ』は、正体の知れない敵役と戦う物語でした。当時としてはまことに斬新な主人公の追い込まれ方を設定し、虚構の中の現実感を追求しました。ハリウッド大作的な綺麗な映像の整理整頓感はなく、荒々しい場末感が漂う佳品でした。代表的な登場人物は『ジョーズ』のクイント船長(ロバート・ショウさん)で、彼のリアルな恐怖の汗の匂いは観客に深く届きました。

本作『未知との遭遇』では、正体の知れない存在は宇宙人です。宇宙人は善でも悪でもなく、彼らの思いだけで行動しているように見えます。悪ではありませんから、主人公たちはその悪に苦しめられたあげく対決を決意し、そして勝利するなどという定型ヒーローものにはなりようがありません。そして前述のように人間はまったく描かれていません。

米軍や米政府がUFOの存在を隠匿し、その情報を独占しようとしている描写は、当時としては斬新で納得したものです。とはいえこれをしっかり批判的に描いているわけではありません。『E.T.』でもそうでしたね。


本作に関して、「初めて描かれた宇宙人との友好接触映画」という評価がよくありますが、本当に友好関係なんですか、これ。

本作において宇宙人はかつて人類を多数誘拐しました。今回”無事に”返還したようですが、その人々は浦島太郎です。とはいえ彼らはUFOという竜宮城で幸せだったのでしょうか、これから幸せは訪れるのでしょうか。あの腑抜けたような帰還・上陸シーンはどういう意図で演出されたのでしょう。

宇宙人の子供たちに選ばれたロイは満ち足りた思いだったでしょう。ですが宇宙船に乗り込んだ後、ロイは充実した人生を送れるのでしょうか。取り憑かれ洗脳されているからハッピーは続くのでしょうか。

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