2018年04月19日

『スティング』

データ
『スティング』
評価:☆☆☆☆☆☆☆☆・・
年度:1974年公開
鑑賞:ビデオ等で数回視聴。某公共施設のスクリーンで無料視聴。近年に映画館で鑑賞。
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:デヴィッド・S・ウォード
音楽:マーヴィン・ハムリッシュ
衣装:イデス・ヘッド
俳優:ポール・ニューマン(ジョニー・フッカー) ロバート・レッドフォード(ヘンリー・ゴンドルフ) 
   ロバート・ショウ(ドイル・ロネガン) チャールズ・ダーニング(スナイダー刑事) 
   アイリーン・ブレナン(ビリー) サリー・カークランド(クリスタル) 
   ロバート・アール・ジョーンズ(ルーサー・コールマン)
製作:アメリカ
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『スティング』

ロバート・ショウ


コメント

ここでのポール・ニューマンのかっこよさは、私の映画史上のベスト10に入りますし、
私が好きな俳優の一人ロバート・ショウは、この映画の中でも存在感を放って見事です。
他にも、ダイナーの女主人(アイリーン・ブレナン)など、女性の演技のリアルさが光ります。
軽快なサウンドトラックを耳にするたびに、この映画のワクワク感と再会します。

欠点は、主役男性二人がイケメンすぎて、少々現実離れしてしまうことくらいでしょうか。
(女性たちはいい意味で場末感が漂うキャスティングなのですから)


『スティング』

アイリーン・ブレナン



批評<ペテン>

この映画を初めて商業スクリーン、つまり映画館で鑑賞したのは数年前です。
テレビモニターではもっぱら爽快なトリックを楽しんでいたのでしたが、
やはり映画館には足を運ぶだけの価値があります。

登場人物が棲息するニューヨークやシカゴの、
ごみくずだらけの街やスラムなど殺伐とした世相の描写によって、
物語の背景がどのような時代であったかようやく気付きました。


この映画の舞台は1936年だと字幕にあります。
1929年の世界恐慌から7年。
F.ルーズベルトの主導になるニューディール政策が始まって数年が経過していますが、
効果があったとしてもまだ限定的だった時代です。

wikipediaによれば、世界恐慌は「1929年10月24日10時25分、ゼネラルモーターズの株価が80セント下落した。」ことに端を発するとあります。
すでに過度な投機ブームは暗黙の不安を醸成していたはずですから、GM株価の低落はきっかけに過ぎないのですが、それでもたった一社の株価の暴落が世界恐慌の引き金になったことはきわめて象徴的です。

株券とはただの印刷された紙切れに過ぎないことはだれでも知っています。
(今やその株券と言う現物すら電子データに置き換わってしまい、なおさら)
私たちはこの紙片に10$だ20$だと通貨に換算したフィクションをイメージしているに過ぎません。
いえ、そもそも通貨それ自体虚構に過ぎず、皆が信じているから通用するというレベルの危うい記号です。
この共同幻想状態を「信用経済」と言うこともできますが、「ペテン経済」と呼ぶこともできます。
いわば私たちはペテンの上に成り立った社会に心理的にも依存して暮らしているわけです。

共産主義運動によるペテン経済への抵抗や脱出の試みは失敗に終わり、
私たち人類は今なお砂上楼閣の中で富を夢見る暮らしを生きています。


『スティング』




さて繰り返しになりますが、
その世界恐慌から7年ほどが経過した1936年、
米国経済がまだその痛手を癒し切れていない頃、
つまり経済的に深手を負った庶民の一部にとっては、恐慌直後よりもさらに深刻な命の危機に瀕している時期こそが、
『スティング』という詐欺師を主役にした映画の舞台背景画になります。
とはいえ、それはテーマではありません。

この映画は、
不況/恐慌という、ペテン経済の巨大な崩落状態の中で、
小さなペテンを生きる術にしている落ちぶれた男たちの復活の物語です。
失業者だらけの暗い世相の中で、ようやく手に入れたつまらない職を仕方なくこなしている男たちの復活の物語です。

ロバート・レッドフォード演じるフッカーは、
おっぱいを振り回すだけしか芸の無いストリッパーにつきまとい、
ようやく稼いだ3000$をルーレットで増やそうと欲張るチンピラに過ぎませんし、
ポール・ニューマン演じるゴンドルフは、
娼婦宿に女主人のヒモ同然に居候し、
深酒のあげくベッドから転がり落ちて寝ている飲んだくれでした。

ところがゴンドルフは、師ルーサーの惨殺に怒るフッカーの怒りを理解し、共感します。
ロバート・ショウ扮するギャングのロネガンへの復讐に立ち上がります。
目標を見つけ腹を決めたゴンドルフの姿の良さは、すべての観客の支持を得るほどの完璧さで決まります。

彼らの復讐劇には大勢の脇役が必要です。
その募集に応じた人々の去就もまた鮮やか。
たとえばある銀行員は、職場に現れたゴンドルフが鼻を一掻きする仕草を見ただけでたちまち職を辞し、嬉々としてゴンドルフのもとに馳せ参じるのです。

このことはゴンドルフの人望というより、夢を見せてくれるゴンドルフへの信頼でしょう。
閉塞の極地に達したアメリカ社会で、自分たちをわくわくさせてくれる伝道師が再臨したのです。
何の目前の職如き。

めでたしめでたし。


もっとも、彼らがなした行動は、
強大なペテン経済に一矢報いる行動ではなく、
下品で凶暴なギャングへの復讐劇にすぎないのですが、
それはまあ、勘弁しておくことにしましょう。
私たちが味わうカタルシスをちょっと小規模にとどめておけば済むことですから。


stingとは詐欺やペテンを意味するアメリカの、まあ、俗語です。
資本主義経済という名の巨大スティングの内部で、
たくましくも完璧に小スティングを演じるメンバーたちの楽しい気分を共有できる映画と言えましょう。



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Posted by gadogadojp at 10:00│Comments(0)映画
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